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お風呂の椅子は、元気なうちに──介護保険で買う人、ネットで買う人

お風呂って、入る前はちょっとめんどくさいんですよね。

今日はもういいかな、と思う日があります。お風呂をやめておくことを「風呂キャン」と言うそうですが、あの感覚、正直わかります。

でも、入ってしまえば話は別で。あたたまって、血のめぐりがよくなって、さっぱりして、気持ちまで軽くなる。入ってよかった、と毎回思う。 これは年齢に関係なく、みんな同じだと思います。

私はとても疲れた日に、闇風呂というのをやります。お風呂の電気を消して、洗面所の電気だけつけて、薄暗いなかで湯船に入る。これが本当に気持ちよくて、頭のなかまでゆるんで、天国です。


そんなお風呂ですが、ご高齢の方にとっては、同時にとても危険な場所でもあります。

冬はヒートショックが怖い。濡れた床で足をすべらせたら、それだけで大ごとになる。

ご家族が「お風呂どうしてるの」と聞いたとき、返ってくるのはこんな言葉です。

「転んだら大変だし」
「そんなに動いてないから、汗もかいてないしいいの」

この言葉が示しているように、お風呂は「積極的に日常に取り入れたい場所」とは逆の位置に来てしまっています。あんなに気持ちのいい場所が、身構える場所になっている。

そして、困っている人の言葉ではないんですよね。ご本人は「困っていない」と言っている。 だからご家族も、それ以上は踏み込めなくなります。

ただ、相談室でこういうお話を聞いていると、2つの理由には順番があるように思います。先に出てくるのは、たいてい「転んだら大変」のほうです。

汗をかいていないから入らない、のではなくて、怖いから入らない。汗の話は、あとから付いてくる理屈だと思います。

だとすれば、減らすべきなのは怖さのほうですよね。

この記事では、その一番手軽な方法であるお風呂の椅子について、介護保険で買う方法と、買ってはいけない買い方をお伝えします。

読者さん
本人が「いい」って言ってるのに、無理にすすめるのもなあ…。
reiko
無理にすすめなくていいよ。怖さのほうを減らしてあげると、自分から入るようになる方もいるの。

目次

デイのお風呂が嫌、というわけでもないんです

「デイサービスでお風呂に入れてもらえば?」

ご家族からは、よくそう言われます。そして実際、デイのお風呂はとてもいいものです。

広くて、手すりも機械もそろっていて安全で、清潔で、しかも自分で掃除しなくていい。職員の方がしっかり介助してくれます。

「裸なんて見られたって、何てことないのよ。この歳なんだから!」

そう言ってニコニコ話してくださる方もいます。

私は以前、特別養護老人ホームで働いていたことがあるのですが、お風呂の日を心待ちにしている方は本当に多いんです。「私、お風呂まだかしら」と何度も聞きに来て、順番が来るといつもより動きが機敏になる。上がってきたときには髪がふわふわで、肌つやもよくなっていて、大満足の笑顔。

よかったねえ、とこちらまで嬉しくなったのを覚えています。

介助している職員は汗だくで大変です。でも、あの笑顔を見たら報われると思います。

では、なぜ話がまとまらないのか

お風呂が嫌なのではなく、デイという場所そのものに遠慮がある。そう感じることのほうが多いです。

  • できたら行きたくない
  • まだ家で入れるし
  • わざわざ外でお風呂に、というほどでもない

「絶対に嫌だ」と強く言う方は、実はそんなに多くありません。 遠慮なんですよね。

温泉やスーパー銭湯の広いお風呂が好きな方がたくさんいるのと同じで、デイのお風呂に何の抵抗もない方もいます。そこは本当に人それぞれです。

なのでこの記事は、デイに行かないほうがいいという話ではまったくありません。デイもいい。そのうえで、家で入りたいという方のための話です。


この記事は、とくにこういう方に読んでほしいです

家で入りたい方、と書きましたが、なかでも2つのタイプの方に届いてほしいと思っています。

① まだ元気で、介護認定も受けていない方

要介護認定を受けるほどではない。人の手を借りるような状態でもない。自分のことは自分でできている。

実は、この段階の方が一番危ないと思っています。

「まだ大丈夫」と思っているから、何もしないまま入る。そして転ぶのは、たいていこういう方です。

椅子を置くのは、介護が必要になったからではありません。これからも自宅のお風呂で、安全に、気持ちよく入り続けるためです。順番が逆なんですよね。弱ってから備えるのではなくて、元気なうちに置いておく。

認定がないので介護保険は使えません。でも、そのぶん自由に選べます。ネットでも、お店でも、好きなものを買って大丈夫です。

そして、これは書いておきたいです。

お風呂で転んで骨折して、そのまま入院になった方を、私は何人も見ています。

骨折まで至らなくても、「お風呂でコケた」「つるっとなって危なかった」という経験は、たぶん日常的に起きています。ただ、そういうことはご家族に言わないんですよね。心配をかけたくないので。

実はうちの親もそうです。湯船には入っていますが、洗い場では立ったまま体を洗っています。

シャワーで流すとき、目をつぶる瞬間があるじゃないですか。あのとき、ちょっとフラッとしていないかな、と思うんです。普段そこまで話さないので分かりませんが、「つるっと」を経験していないはずがないと思っています。

想像するだけで、怖いです。

自分でやりたい気持ちが強い方ほど、安全を期してほしい。 意地を張っているわけではなくて、まだ大丈夫だと思っているだけなんですよね。その「まだ大丈夫」が、いちばん危ないところです。

② 介護保険を使うには、まだ年齢が若い方

脳卒中などで麻痺が残った方。40歳未満だと介護保険そのものが使えませんし、40代・50代で使える場合でも、デイサービスに行くことには抵抗があるという方は少なくありません。

自分は、家のお風呂で何とかやっていきたい。

そう思って、ご家族の支えのなかで頑張っておられる方を、私は何人も見てきました。

そういう方にとっても、お風呂の椅子は抵抗なく買えるものだと思います。サービスを使うわけでもなく、誰かに家に来てもらうわけでもない。椅子をひとつ置くだけですから。

それだけでお風呂の時間がもっと楽になるなら、試す価値はあると思うんです。

💡 障害者手帳をお持ちの場合は、市区町村の**「日常生活用具」**という制度で補助が受けられることがあります。入浴補助用具もその対象に含まれます。ただし内容は自治体によってかなり違うので、障害福祉の窓口で聞いてみてください。


家のお風呂が、いちばん危ない

とはいえ、家のお風呂が安全かというと、そうではありません。

厚生労働省の人口動態統計によると、2022年の1年間で、65歳以上の方のうち5,824人が、家や施設の浴槽で溺れて亡くなっています。高齢者の不慮の事故のなかでも、溺死は大きな割合を占めます。しかも12月から2月に集中します。

寒い脱衣所で服を脱いで、熱いお湯に入る。血圧が大きく動いて、意識が遠くなる。そこに転倒が重なることもあります。

ただ、危ないから入るなという話ではありません。入り方を変えれば、危険はかなり減らせます。その一番手軽な一歩が、椅子です。

読者さん
じゃあ手すりを付ける工事とかしないとだめ?
reiko
そこまでしなくていいよ。まずは椅子を置くだけで、だいぶ違うの。

椅子があるだけで、お風呂は変わる

お風呂用の椅子というと、お風呂場によくある低い腰かけを思い浮かべる方が多いと思います。あれではありません。

介護用のものは、座面が高く背もたれや肘掛けが付いているものがあります。

  • 座面が高いので、立ち上がるときの負担が全然違う
  • 肘掛けがあると、そこに手をついて立てる
  • 背もたれがあると、体を洗っているあいだ安定する
  • 滑り止めが付いていて、濡れた床でもずれにくい

しゃがむ・立つという、いちばん危ない動作を減らせます。工事はいりません。置くだけです。


すでに認定をお持ちの方は、介護保険で買えます

ここからは、すでに要介護・要支援の認定を受けている方に向けた話です。認定をお持ちでない方は、読み飛ばしていただいて大丈夫です。

お風呂の椅子は、介護保険の特定福祉用具販売という制度の対象です。1〜3割の負担で購入できます。

対象になるもの

「入浴補助用具」として、次のものが対象です。

  • 入浴用いす(シャワーチェア)
  • 浴槽用手すり
  • 浴槽内いす
  • 入浴台(バスボード)
  • 浴室内すのこ・浴槽内すのこ
  • 入浴用介助ベルト

車いすや介護ベッドはレンタルですが、お風呂まわりの用具は直接肌に触れるため、購入になります。

いくらまで使えるか

4月から翌年3月までの1年間で、10万円までが対象です。要介護度に関係なく、この枠が使えます。

自己負担は所得に応じて1割から3割。1万円の椅子なら、1割の方で1,000円です。

⚠️ ネット通販とホームセンターは、対象になりません

ここがいちばん大事なところです。

介護保険で買えるのは、都道府県の指定を受けた販売事業者から、福祉用具専門相談員の助言を受けて買った場合だけです。

自治体の案内には、こう書かれています。

福祉用具専門相談員から福祉用具に関する専門的な知識に基づく助言などを直接うけられない「通信販売」「インターネット販売」等での購入は給付の対象とはなりません
(品川区)

つまり、同じ商品でも、ネットで買った瞬間に全額自費になります。指定を受けていないお店で買った場合も同じです。

そして、買ってしまってからでは戻せません。

読者さん
えっ、もうネットで買っちゃった…。
reiko
その場合は全額自費になるの。買う前に一本相談してね。順番が逆になると戻せないの。

認定を持っている方は、買う前にケアマネジャーか、地域包括支援センターに一本相談してください。事業者の手配までしてもらえます。事前の申請が必要な自治体もあります。

もうひとつ。施設や病院で使うためのものは対象外です。あくまで自宅で使うものが対象になります。

なお、この購入の手続きまわりは、担当のケアマネジャーさんや地域包括支援センターのほうがずっと詳しいです。 私は病院の相談員なので、在宅の福祉用具は専門ではありません。商品選びも含めて、遠慮なくそちらに聞いてください。


認定がない方、使いたくない方は、ふつうに買ってください

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

認定を受けていない。あるいは、受けたくない

  • 申請するほどではない気がする
  • 家に他人を入れたくない
  • 親が「まだそこまでじゃない」と言って嫌がる

どれも、よくあることです。制度を使わないという選択が悪いわけではありません。

その場合は、自費でふつうに買って大丈夫です。 ネットでも、お店でも、好きなものを選んでください。介護保険のような決まりは何もありません。

ここで思い出してほしいのが、冒頭の言葉です。

「転んだら大変だし」

転んでからでは遅いんですよね。 椅子は、転ばないために先に置いておくものです。

ちなみに、お風呂の椅子はかさばります。お店で買うと持ち帰りが大変なので、ネットで届けてもらうほうが現実的だと思います。種類も値段も幅があるので、写真を見比べて、置ける大きさのものを選んでください。

読者さん
認定はないけど、親が心配。それでも買っていいの?
reiko
もちろん。自費にはなるけど、転んでからでは遅いからね。

買う前に、2か所だけ測ってください

最後に、これだけはお願いします。

洗い場の幅と、床から膝の裏までの高さ。この2つです。

ひとつめは、置けるかどうかです。日本の浴室は洗い場が狭いつくりのものが少なくありません。椅子を置くと、体を洗うスペースがなくなってしまったり、そもそも入らなかったりします。

お風呂のドアも確かめてください。 内側に開くドアや折れ戸だと、椅子が当たって開かなくなることがあります。中で具合が悪くなったときに、外から開けられないのがいちばん困ります。

ふたつめは、座面の高さを決めるためです。高すぎると足の裏が床に着かず不安定になりますし、低すぎると立ち上がれません。座ったときに足の裏がきちんと床に着く高さが目安になるので、床から膝の裏までを測っておくと選びやすくなります。高さを調整できるものも多いです。

浴槽をまたぐための手すりや、浴槽にかけて座る台(バスボード)も一緒に検討する場合は、浴槽のふちの高さも必要になります。

指定事業者から買う場合は、相談員さんが見に来てくれるので心配いりません。自費でネットで買う場合だけ、ご自身で測る必要があります。

読者さん
どこを測ればいいの?
reiko
洗い場の幅と、床から膝の裏までの高さ。この2つだけでいいよ。

まとめ

  • 「まだ大丈夫」と思っている段階が、いちばん危ない。椅子は弱ってから置くものではなく、元気なうちに置くもの
  • 認定がない方・受けたくない方は、自費でふつうに買って大丈夫。ネットでも問題ありません
  • 買う前に洗い場の幅(置けるか)と床から膝の裏までの高さ(座面の高さ)を測る
  • すでに認定をお持ちの方は、介護保険の特定福祉用具販売1〜3割。上限は4月〜翌3月で10万円
  • ⚠️ ただしネット通販・指定外のお店で買うと全額自費。買ってからでは戻せないので、先にケアマネジャーか地域包括支援センターへ
  • 障害者手帳をお持ちの方は、市区町村の**「日常生活用具」**の制度も。障害福祉の窓口へ

「そんなに動いていないから、汗もかいていない」。たしかに、そのとおりかもしれません。

でもお風呂は、汚れを落とすためだけの時間ではないですよね。あたたまって、ひと息ついて、さっぱりする。入ってよかった、と思えるあの時間が減っていくことのほうが、あとから効いてきます。

無理に勧める必要はないと思います。ただ、怖さのほうが減ると、自分から入るようになる方はいます。椅子ひとつで変わるなら、試してみる価値はあると思います。

安全に入れること。まずはそこを第一に考えてください。

そしてこれを読んでくださった方は、ご自分の親にも買ってあげてほしいです。本人はきっと「まだいらない」と言います。それでも、です。

体を洗うためだけの場所ではなく、ゆっくりとゆるむための場所として。 お風呂の時間を、取り戻してほしいと思っています。


※この記事の内容は2026年9月時点の情報をもとにしています。支給の方法や事前申請の要否は市区町村によって異なります。詳しくはお住まいの市区町村の介護保険担当窓口、担当のケアマネジャー、または地域包括支援センターにご確認ください。


参考

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この記事を書いた人

医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)です。病院の相談室で12年、入院費や医療費のご相談を受けてきました。制度は、知っているかどうかで負担が変わります。相談室で実際にお伝えしていることを、そのまま書いています。──知るほどに、安心へ。

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